奏汰と友里は見つめ合った。 片方は困惑の表情、もう片方は覚悟を決めた表情。 先ほどまで2人きりで静かだったはずのラボには、危険を知らせる警報が鳴り響いている。それは壁に掛けてある時計が、チッチッチッと秒針を鳴らし「時間が無い!急げ!」と必死に伝えようとしているのに、その音すらかき消してしまう。 実際、2人には猶予は残されていなかった。こうしている間にも武装した男たちは家の周りに静かに囲い込…
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ヴァ―レ・リーベ 第6話「彼女は何か知っている」
茶色いドアの銀色に輝くドアノブを握り玄関を開けると、誰かがフローリングを走っているのか激しい足音がした。 その音は段々と近づいて来ており、遂には何やら慌ただしく玄関に繋がる階段をドタドタと駆け下りてくる、白衣姿の友里が姿を現した。 「ただいま」 「あ!おかえりー。って家は奏汰の家じゃないんですけど」 奏汰がリュックを背負ったまま、直接友里の家に来たことに抗議をした。 「いや、もう直接来た方が…
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ヴァ―レ・リーベ 第5話「人間関係」
「クラスで、根も葉もない変な噂が立っているのは、古谷も知っているな?」 奏汰や友里のクラス担任である佐藤先生は、他の教師たちが忙しく雑務をこなしている職員室に奏汰をお呼びだし、出来るだけ穏やかに務めて、話を切り出した。 「………はい。今朝、ニュースでやってた、工場が爆発して、それがロボットの襲撃のせいじゃないかって話ですよね。それを友里がやったって。でも俺はあいつがそんなことをしないと思っていま…
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ヴァ―レ・リーベ 第4話「異変」
次の日の朝、奏汰は友里の家へ行き、玄関に入ると彼女はダボダボな白衣を着たままラボで寝ていた。スヤスヤと可愛い寝息を立てている彼女を起こすと、寝ぼけたまま手をひらひらと振って、「研究がしたい」と言い出した。こういう時、小黒友里という人間は梃子でも動かない。仕方なく学校には体調不良という名目で休む旨を電話で、奏汰が伝えなければいけなくなった。というのも、彼女の親はこの日は帰ってこない日であり、彼は親…
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ヴァ―レ・リーベ 第3話「秘密」
他よりも大きな白い家の黒い表札には小黒と掘られており、その家の中のリビングではカチャカチャとフォークと食器が軽い音が、踊るように両サイドからなっていた。 リビングはラボの隣にある、比較的片付いていて、尚且つずっと小さい部屋で、テーブルにパスタやスープが彩られて置かれた食器が並び、近くの椅子には友里と奏汰が向かい合って座っている。今夜の夕飯は家に家族がいなく、また家事が不得意な友里のために、奏汰…
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ヴァ―レ・リーベ 第2話「研究室」
杉田高等学校の校舎には約1000人もの生徒が、40人ごとに教室に入り、自分たちの席に座り、教科書を広げノートを広げ、教師によって行われる授業を聞いて、必要であればメモを取るし、指示があれば問題を解いている。 しかし一般的で真面目で優秀な大多数の生徒が、教師の理想とする授業態度をとるのに対して、少数の生徒はそうではなかった。ある者は、教師にバレないように教科書を立て、持ってきていたお弁当のおかず…
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ヴァ―レ・リーベ 第1話「天才少女」
街。平穏な街。大勢の人間が、アスファルトをも焼いてしまいそうな朝日に見守られながら、しかし見守られていることなど露ほども知らず、スマホやら携帯電話やらを見るために下を向いて歩いている。どこを見ても大勢の人の群れ、動かない車の列、何度も行きかう電車、広い空に独特な機械音で存在感を隠そうとしない飛行機。誰もが忙しい。そんな息苦しく、物々しい風格とは無縁な街。都会とは少し離れている街。 この街には特…
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コスモス第2章話13話「気持ち」
フカフカなソファーに腰かけながら、僕はイオの隣で、静かに話を聞いていた。 凛音と里久の、辛くて悲しい、なんともやりきれない話を。僕がコスモスに乗って逃げた後の学校のこと、どうやってニ人が助かったのか。どうして旅を始めたのか。 淡々と……淡々と語られていく、もう一つの物語。 話す凛音の表情は、怒っている顔でも、悲しみの表情でもない。感情の読み取れない、真顔。普段感情が豊かな凛音からは信じられ…
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コスモス第2章12話「逃げた先にあったものは………」
暗い道。右も左も、上も下も真っ暗。 後ろの方、つまりは凛音と里久が入った入り口は、明るい。 そして、2人が向かう先に、小さく光がある。 まるでトンネルみたいに、この暗い空間は2つの光を繋いでいるのだ。 凛音も里久も、手を前に伸ばして、何か壁のようなものがないか探しながら歩いた。不安はあるものの、攻撃を受けた2人は感覚が少々麻痺しており、歩むことを止めなかった。 途中、なんとなく、光のあ…
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コスモス第2章11話「悲劇」
あの日。地球が破壊された日のお話。 自分たちが住んでいた世界を、街を、日常を、思い出を、跡形も無く消された日の記憶。 残酷で、悲惨な記憶。 「慶介!!」 親友を呼ぶ声は、爆音によってかき消され、本人に届くことはなかった。呼びかけた相手はすでに校庭から姿を消していた。その代わり見えたのは、そこにはあるはずのないもの。 校庭と言う、児童が遊んだり体育を行う際に使われたりする広場に、何故かレー…