午後5時45分。懐中時計の針はその時刻を指していた。 まだ6月で、雨天の今日は外を歩くには肌寒かった。 周りに立つ木々は緩やかな風に揺れ、私の手に持つ傘には雨粒が激しく打ちこんでいた。 私が今現在いるこの場所は都心の端にある、小さな山の上の児童公園。地理に疎い私は、この公園の名前を知らない。そんな私がわざわざ混雑した電車に乗り、雨に濡れてまでここに訪れたのは、山の麓に一列に並び咲き誇る紫陽…
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プリン
四月も終わり、菜の花は散り、桜の木もすかっり緑色に染まった頃、私は、高校に入って二年目となる通学路を帰っていた。アスファルトは砕け、凸凹とした道で自転車の各パーツが緩んでいるのか声を上げている。 身体はクタクタ、ワイシャツの下は汗が滲んでいる。まだ夏にもなっていないのに、嫌に熱い。 ただ風は涼しくて、なんとなく青と水色とが混ざる空を見上げれば、傾き始めた太陽の光によって、大きな雲や、小さな雲…