幸い敵は鈍足らしく、敵影は無かった。 もしかしたら身を潜め、どこからか狙撃をしようとしていない限りは、まだ安全な地だった。 友里はフライアの肩に立ち、辺りを確認した。 戦闘を行うとすれば、ここの広さは十分であり、また閉演時間を超えているため、人は少ない。 職員はいるだろうが、少し離れたところに事務所があり、直接的な被害は考えづらい。 迎え撃つならここである。 下で人間の胴…
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ヴァ―レ・リーベ 第8話「判断できない」
「私は、2週間で日本語を理解した。必要だったから……………。それからは奏汰が知っての通り、毎日実験やら研究やらを繰り返してきたの」 奏汰は友里の言葉の一つ一つに注意深く、静かに聞いていた。いやむしろその信じがたい話に口を開き、声を失っていたとした方が正しいかもしれない。 全てを理解し信じろと言われても、こんな話簡単に飲み込めるような内容ではなかった。 が、一方で友里の今までの言動…
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ヴァ―レ・リーベ 第7話「ロボット」
奏汰と友里は見つめ合った。 片方は困惑の表情、もう片方は覚悟を決めた表情。 先ほどまで2人きりで静かだったはずのラボには、危険を知らせる警報が鳴り響いている。それは壁に掛けてある時計が、チッチッチッと秒針を鳴らし「時間が無い!急げ!」と必死に伝えようとしているのに、その音すらかき消してしまう。 実際、2人には猶予は残されていなかった。こうしている間にも武装した男たちは家の周りに…
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ヴァ―レ・リーベ 第6話「彼女は何か知っている」
茶色いドアの銀色に輝くドアノブを握り玄関を開けると、誰かがフローリングを走っているのか激しい足音がした。 その音は段々と近づいて来ており、遂には何やら慌ただしく玄関に繋がる階段をドタドタと駆け下りてくる、白衣姿の友里が姿を現した。 「ただいま」 「あ!おかえりー。って家は奏汰の家じゃないんですけど」 奏汰がリュックを背負ったまま、直接友里の家に来たことに抗議をした。 「いや、もう…
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ヴァ―レ・リーベ 第5話「人間関係」
「クラスで、根も葉もない変な噂が立っているのは、古谷も知っているな?」 奏汰や友里のクラス担任である佐藤先生は、他の教師たちが忙しく雑務をこなしている職員室に奏汰をお呼びだし、出来るだけ穏やかに務めて、話を切り出した。 「………はい。今朝、ニュースでやってた、工場が爆発して、それがロボットの襲撃のせいじゃないかって話ですよね。それを友里がやったって。でも俺はあいつがそんなことをしない…
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ヴァ―レ・リーベ 第4話「異変」
次の日の朝、奏汰は友里の家へ行き、玄関に入ると彼女はダボダボな白衣を着たままラボで寝ていた。スヤスヤと可愛い寝息を立てている彼女を起こすと、寝ぼけたまま手をひらひらと振って、「研究がしたい」と言い出した。こういう時、小黒友里という人間は梃子でも動かない。仕方なく学校には体調不良という名目で休む旨を電話で、奏汰が伝えなければいけなくなった。というのも、彼女の親はこの日は帰ってこない日で…
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ヴァ―レ・リーベ 第3話「秘密」
他よりも大きな白い家の黒い表札には小黒と掘られており、その家の中のリビングではカチャカチャとフォークと食器が軽い音が、踊るように両サイドからなっていた。 リビングはラボの隣にある、比較的片付いていて、尚且つずっと小さい部屋で、テーブルにパスタやスープが彩られて置かれた食器が並び、近くの椅子には友里と奏汰が向かい合って座っている。今夜の夕飯は家に家族がいなく、また家事が不得意な友里の…
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ヴァ―レ・リーベ 第2話「研究室」
杉田高等学校の校舎には約1000人もの生徒が、40人ごとに教室に入り、自分たちの席に座り、教科書を広げノートを広げ、教師によって行われる授業を聞いて、必要であればメモを取るし、指示があれば問題を解いている。 しかし一般的で真面目で優秀な大多数の生徒が、教師の理想とする授業態度をとるのに対して、少数の生徒はそうではなかった。ある者は、教師にバレないように教科書を立て、持ってきていたお…
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ヴァ―レ・リーベ 第1話「天才少女」
街。平穏な街。大勢の人間が、アスファルトをも焼いてしまいそうな朝日に見守られながら、しかし見守られていることなど露ほども知らず、スマホやら携帯電話やらを見るために下を向いて歩いている。どこを見ても大勢の人の群れ、動かない車の列、何度も行きかう電車、広い空に独特な機械音で存在感を隠そうとしない飛行機。誰もが忙しい。そんな息苦しく、物々しい風格とは無縁な街。都会とは少し離れている街。 …
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コスモス第2章8話「失うもの、得るもの」
薄暗く静かなファクトリー・カー。何かを創るために設置された機械たちは、動きを止め、じっと息を凝らしている。壁には照明とは違った光が所々に散在していているけれど、どれもこの部屋を照らすほどじゃない。僕は大きな円柱形の水槽を前で1人、立ち尽くしていた。 水槽の中は緑色の半透明な液体で満たされていている。そんな中、普通はあり得ないけれど、イオが一糸まとわぬ姿で浮かび、両脚を抱えるようにし…