執筆 : 星雲御剣/注釈 : 清水銀嶺
7:エヴァにも見えるウルトラの星(前編)
安野モヨコ著・『監督不行届』(※注1)において克明に描かれているが、エヴァの監督・庵野秀明氏は、学生時代に『帰ってきたウルトラマン』(※注2)という自主制作映画を作っている。
これは、TV放映された同タイトルの物とは内容的に関連性は無い。無いのだが、庵野氏自身が演じるウルトラマンの滑稽さとは裏腹に、高度な形態模写で完全に成りきっているところが最大の見所と言える(自主制作という性質上、残念ながら入手は困難……著者の手元にも現在は無い(涙)。
さて、このことからも明白なように、庵野秀明氏は、TV放映版の『帰ってきたウルトラマン』にはかなり傾倒しているようで、実際、その観点で『ヱヴァンゲリヲン』を見返してみると、かなりの要素が濃い影響を受けていることが分かる。
ウルトラマン・郷秀樹と、碇シンジは、どちらも、家族に恵まれない、自分の居場所を定められない主人公であること(★補1)。
ウルトラマンとヱヴァンゲリヲン、どちらも決戦戦力でありながら不安定で、常に出撃できるとは限らぬ設定になっていること(★補2)。
舞台背景に目をやると、1970年代初頭の高度成長期末期の東京と、第三新東京市は、どちらも工事中の風景が多く、毎回のように大規模破壊が巻き起こる世界観に、地味ながら説得力を持たせる一助になっていること、等がある。
ここで特に注目したいのが、『帰ってきたウルトラマン』第35話「残酷! 光怪獣プリズ魔」に登場した光怪獣プリズ魔である。
日本特撮の怪獣は着ぐるみが主流であるが(★補3)このプリズ魔は「オブジェ型」とでも言うべき斬新なモノであり、その形は、言うなれば「屹立する結晶体」……そう、エヴァの第5使徒・ラミエルがこれと同モチーフなのだ(★補4)(以下次号)。
※注1……『監督不行届』
※注2……『帰ってきたウルトラマン DAICON FILM版』
★補1
郷秀樹の方が、年齢が行っている分だけ少し落ち着きドコロがある等の違いはあるが、自問自答型の内向型主人公、という点ではかなり共通の要素が見られる。
★補2
『帰ってきたウルトラマン』には、初代ウルトラマンのベータカプセルやセブンのウルトラアイの様な変身アイテムが無く、本当にギリギリのピンチの時にしか変身できなかった。これが『ギリギリまで頑張って、それでも駄目なとき初めて助けてくれる神』としてのウルトラマンというテーマ性を実によく体現していた。その『神』を、おこがましくも自らの手で作りだしてしまった人類の愚かしさが、エヴァの中核テーマなのである。
★補3
日本の怪獣は、その原初であるゴジラに準じて着ぐるみ型が多く、アメリカ映画だと、キングコングに準じたコマ撮り型が多い。
映画技法的にはコマ撮り型が正攻法なのだが、ゴジラの場合、「第五福竜丸事件」に絡めた時事映画であり、事前に頓挫した企画の代替制作であったなどの事情から完成が急がれ、手間と時間のかかる
コマ撮りができなかった……という裏話があるらしい。それが後々まで主流になったのだから、これぞ『できぬ不平より創意工夫』という好例である。
★補4
ラミエル登場時の効果音は、プリズ魔と同じモノが使われていることから、これは制作側の確信犯であることは明白であり、前回書いた「敵だと分かれば良い記号化されたデザイン」の原初がここにあると思われる。
◆次回は「7:エヴァにも見えるウルトラの星(後編)」
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◆星雲御剣(せいうん みつるぎ)
80年代後期ファミコンブームの頃から各ゲーム誌で攻略記事を担当。
ゲームのみならず、マンガやアニメにも造詣が深く、某大手出版社の入社試験では、面接官に聞かれたウルトラマン、仮面ライダー、ガンダムの顔と名前を全部言い当てたのが合格の最大の決め手になった、と言われている(笑)。
独特のオタク感を実生活に反映させる生き様を模索、実践する求道者。
◆清水銀嶺(しみず ぎんれい)
唐沢俊一氏主宰の『文筆業サバイバル塾』第一期塾生。
既刊『メイド喫茶で会いましょう』(共著)
『ためログ』にて記事を執筆。