執筆 : 星雲御剣/注釈 : 清水銀嶺
12:飛べ、ホワイトベース!
『機動戦士ガンダム』。今更なにを説明する必要もない、国民的大ヒットアニメである。
だが、その黎明は実に厳しいところから始まっているのは、昨今、関係者が各方面でぽつりぽつりと語り始めているため、ご存じの向きも多いであろう。
当時、ロボットアニメとは「子供向け玩具を宣伝する」ためのコマーシャルフィルムでしかなかった。
玩具メーカーの提示したロボット玩具を主役に据え、それが心躍る活躍をしていればそれでよしとされ、「ロボットプロレス」等と揶揄される、業界の最底辺だった(補1)。
ここでまず、制作スタッフが「肯定」の発想を発露させる。
「ならば、そこさえ押さえれば後は何をしても良いはずだ」
……と。
そして、企画立案者であり、総監督の富野由悠季氏は「十五少年漂流記のような群像劇」を追加して、ドラマチックに仕立て上げるという手法と、氏が長年思い描いてきた、宇宙を舞台にしたドラマを作り上げる、という要素を入れ込む事を考え出した。
しかし、事は簡単ではなかった。
当時、アニメ製作会社としての日本サンライズ(現・サンライズ)は、とにかく資金も、人も、そして時間も無かったのである。
かくして、その時はやってきた。
総監督・富野氏は「大気圏突入後、リアルに考えたらホワイトベースは飛べないはずだ」と、製作各スタッフに念を押していたのだが、それでは「連邦軍本部に向けての逃亡劇」である前半のストーリーが進まない。
押し迫る時間制限の中、物語はついにホワイトベースを飛ばしてしまったのである。
説明など、考えている暇はない。……リアルな作劇に惹かれていた初期ファン達はこれをどうとらえたであろうか?
ここで、一つの奇跡が起きるのである。(以下次号)
★補1
まず、アニメ自体が「マンガ映画」と呼ばれていて、その程度は低いモノ、子供だましの低俗なモノとされていた。
そして、その評価を覆そうという志を持つモノ達は、ほとんどが「名作モノ」という、大人や文化人に受け入れやすいジャンルに挑んでいた。
これが徐々に功を奏して各界の注目が集まり初め、そして「宇宙戦艦ヤマト」という作品によって「大人が見られるアニメ」という概念がようやく芽生え始めたのがこの頃なのである。
そんな流れの中、旧態のままであったロボットアニメは、業界内で最底辺と見られていたのである。
また、この直前に、オイルショックによる不況から、虫プロの解体、タツノコプロの大縮小などで失業したアニメ関係者がひしめき合っていて、ロボットアニメは「失業対策のの飯の種」でしかなく、「名作路線からこぼれ落ちた」人々のたまり場がロボットモノである、と見られていた節もある事は注目しておきたい。
◆次回は「13:広がるミノフスキー理論」
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&&&&&&&&&&&&&&&&&&&&&&&& 執筆者紹介 &&&&&&&&&&&&&&&&&&&&&&&&&
◆星雲御剣(せいうん みつるぎ)
80年代後期ファミコンブームの頃から各ゲーム誌で攻略記事を担当。
ゲームのみならず、マンガやアニメにも造詣が深く、某大手出版社の入社試験では、面接官に聞かれたウルトラマン、仮面ライダー、ガンダムの顔と名前を全部言い当てたのが合格の最大の決め手になった、と言われている(笑)。
独特のオタク感を実生活に反映させる生き様を模索、実践する求道者。
◆清水銀嶺(しみず ぎんれい)
唐沢俊一氏主宰の『文筆業サバイバル塾』第一期塾生。
既刊『メイド喫茶で会いましょう』(共著)
『ためログ』にて記事を執筆。