<<通巻13号>> 13:広がるミノフスキー理論

記事提供元:北園茶房
執筆 : 星雲御剣/注釈 : 清水銀嶺

13:広がるミノフスキー理論

 ミノフスキー粒子。
『機動戦士ガンダム』劇中に登場する、作中科学技術体系の根幹を支える架空の素粒子である。
 製作サイドとしては、宇宙空間でロボットがチャンバラをやる理由付けとして、レーダー電波を阻害する存在と考えて設定した……最初は、ただソレだけのモノであった。
 しかし、ホワイトベースが飛んだとき、その飛行原理にこの架空粒子を当てはめて考える、という離れ技をしてのけた一団がいたのである。
 ホンモノの物理論文さながらの考証は、まずは身内の同人活動、後には「みのり書房」刊のムック『GUNDAM CENTURY』を経て世に問われ、やがては作品公式設定として取り入れられていくことになる。
 その一団こそが「スタジオぬえ」。SF作家・高千穂遥氏が創立した、SFイラスト・映像関係の総合製作会社であり、日本最高峰の一つとも言われるクリエイター集団である。
 彼らは、厳密には一ファン、という立場ではなく、スタッフの一部がガンダムの製作現場に関わっていたのであるが(補1)、であるが故に、この作品が「アニメの常識」と「現実の非常識」の間にある矛盾を解決してくれる、何か新しい息吹を持っていることを実感していたはずである。
 その実感からくる作品そのものへの「愛着」が、その知識と手間暇とを総動員した「ミノフスキー物理学大系」の構築という、壮大なSF考証を完成させる原動力となったのは疑いのない所である。
 ココで大事なのは「愛着」と「知識」、そして「科学考証ではなくSF考証をする」というスタンスへの理解である。
 科学考証的には、ミノフスキー粒子という架空粒子は存在し得ず、全てはそこで終わってしまう。しかしミノフスキー粒子を「存在するモノ」として、徹底的にその特徴を考証していった事が、後々広く受け入れられることになった最大の要因なのだ。(以下次号)


補1
 当時、本格的なSF作品を立ち上げたいと思ったら、すでに『宇宙戦艦ヤマト』で功績があったスタジオぬえに声をかけるのは道理であり、ガンダムの総監督、富野氏も当然ながらそうしている。
 しかし、当時の日本サンライズ側の都合を考えると、徹底的にこだわり抜くという「ぬえ」のスタンスを受け入れる余地は資金的にも時間的にも無理であると判断され、あくまでも参考意見を求めるだけにとどめて、実際の製作スタッフには一部の人員が脚本などに参加しただけ、となっている。

次回は「14:科学考証とSF考証」
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&&&&&&&&&&&&&&&&&&&&&&&& 執筆者紹介 &&&&&&&&&&&&&&&&&&&&&&&&&
◆星雲御剣(せいうん みつるぎ)
 80年代後期ファミコンブームの頃から各ゲーム誌で攻略記事を担当。
 ゲームのみならず、マンガやアニメにも造詣が深く、某大手出版社の入社試験では、面接官に聞かれたウルトラマン、仮面ライダー、ガンダムの顔と名前を全部言い当てたのが合格の最大の決め手になった、と言われている(笑)。
 独特のオタク感を実生活に反映させる生き様を模索、実践する求道者。
◆清水銀嶺(しみず ぎんれい)
 唐沢俊一氏主宰の『文筆業サバイバル塾』第一期塾生。
 既刊『メイド喫茶で会いましょう』(共著)
 『ためログ』にて記事を執筆。

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