執筆 : 星雲御剣/注釈 : 清水銀嶺
17:天才? 富野監督の「こだわり」方
こだわりと解放、両者のバランス好例として、『機動戦士ガンダム』の富野由悠季氏を上げておこう。
『ガンダム』は、それまで荒唐無稽なだけだったロボットモノにリアリティを持ち込んだ作品として捉えられているが、富野氏の目的はどうもソコにあったわけではないらしい。(補1)
氏は、再三各所で「自分はロボットアニメは大嫌い」という旨の発言をしており、嫌いなモノを仕事としてやっていく納得として、リアリティが存在するだけ、ということらしい……のだが、それにしては恐ろしく細部にわたるこだわりが見て取れる。
氏の自伝『だから僕は……』などによると、氏のこだわりの根源は宇宙への憧れにあるようだ。(補2)
幼少期より憧れ、傾倒した結果として、富野氏はかなり早い段階から「誰もが宇宙に生活できる時代」というのは、おいそれと訪れないことを悟っていた節がある。(補3)
悟った上で、宇宙を舞台にしたロボットモノをやる上で「スペースコロニー」を舞台にするなど、この辺のこだわりと解放のバランスはある種「天才」の趣さえ感じられる。
『ガンダム』には、「理論的にこうだからこの描写はダメ」ではなく、「理論的に無理でも、なんとか出来そうに見える描写にしよう」というスタンスが貫かれているという点は以前にも指摘したが、この点こそがまさに「ハナタレ」となるためのコツ、奥義のようなモノではないのか、と結論づけられる。
こだわりぬいて、学ぶことを楽しみとし、その上でソレを基礎にしてソコ意外の発想を自由にすること。これが、オタク的観点で成功するためのコツ、その全容なのである。
次回は、「トラワレ」と「ハナタレ」、それぞれの発露とその行き着く先を、「トキワ荘」の例から考察してみようと思う。
★補1
『ガンダム』企画当初の意図は「アニメでドラマチックな群像劇がやれないか?」という点にあるらしく、「十五少年漂流記」を下敷きにしたアイデア原案がそもそもの形であったらしい。
後に、この元々の企画書にかなり忠実な形で作られた作品に「銀河漂流バイファム」というロボットアニメがある。
『バイファム』の実作業にはほぼノータッチな富野氏が、原作者としてテロップされることがあるのはそのためらしい。
★補2
富野氏の実家はゴム製品加工の関係にあったらしく、戦時中から高々度戦闘機用のパイロットスーツの試作品等を手がけていたそうで、気ままで奔放、幸福であった幼少期に身近に「宇宙のにおい」があったことが、氏を徹底して宇宙へ傾倒させるきっかけになったということらしい。
故に、半端な宇宙SF映画などにはかなり立腹もされていたようで「子供の頃見た映画がつまらなかったからガンダムを作ったんだ」という旨の発言をしたこともある。
★補3
ガンダムのスペースコロニーには、70年代後半にNASAが提言した、オニール博士の宇宙植民計画が下敷きとなっているが、70年代当時の技術で実現可能なように考察されたこの計画には、メンテナンス性や持続性などの点でかなりの穴がある事が指摘されている。
「欧州には千年前から建ってる石造りの家がある。それが人類の文化だとして、スペースコロニーではソレは無理」という、『キングゲイナー』制作当時の富野氏の発言もあるが、氏はその辺に気づいていたからこそ、『ガンダム』ではそこら辺は巧みにスルーして「夢のある形」を描写して居たように思われる。
「宇宙にすむ夢」と「宇宙にまで今の問題点を持ち越さざるを得ない人類」の悲喜こもごもは、『ガンダム』のメインテーマなのだ。
◆次回は「18:トキワ荘のオタク始祖」
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◆星雲御剣(せいうん みつるぎ)
80年代後期ファミコンブームの頃から各ゲーム誌で攻略記事を担当。
ゲームのみならず、マンガやアニメにも造詣が深く、某大手出版社の入社試験では、面接官に聞かれたウルトラマン、仮面ライダー、ガンダムの顔と名前を全部言い当てたのが合格の最大の決め手になった、と言われている(笑)。
独特のオタク感を実生活に反映させる生き様を模索、実践する求道者。
◆清水銀嶺(しみず ぎんれい)
唐沢俊一氏主宰の『文筆業サバイバル塾』第一期塾生。
既刊『メイド喫茶で会いましょう』(共著)
『ためログ』にて記事を執筆。