執筆 : 星雲御剣/注釈 : 清水銀嶺
21:天才のこだわり
何事にも例外がある。良い仕事をするためには「ハナタレ」ていないとダメ、という話にも一つだけ例外があるのだ。
それは、ある種の「天才」の存在である。
ココで言う「天才」とは、「トラワレ」たままで高水準の結果を叩き出す能力を持った人物のことで、分野の草分けや中興の祖と呼ばれる人物に多い。(★補1)
現在現役の漫画家で例を挙げれば、『ジョジョの奇妙な冒険』で有名な荒木飛呂彦氏に、その気配が強い。
荒木氏は、そのデビュー作(★補2)からしてかなりテーマの絞り込みに関するこだわり方が強く、少年向けの漫画作品としては常に2~3歩ほど先んじたアイデアを主眼とした作例が多い。
そして、その全てが、一言で言うなら「頭の良い展開」(★補3)に徹底してこだわり抜き、「トラワレ」続けながらも高い水準のまま推移しているのである。
常人・凡人がコレをやると、恐ろしく神経をすり減らし、結果として仕事の水準低下を招くのは説明するまでもないだろう。
「天才」というのは、まず何よりも強靱な精神力の持ち主だと言えるだろう。
ただし、この手の「天才」が良い仕事をして、世の中にこの人ありと認められるには条件があって、この条件が非常に難しいのだ。
それは、仕事のパートナーに、本人と同等以上の「天才」が必要だということ。「天才」を理解できるのは「天才」のみなのである。
そして、パートナーとなりえる「天才」は、「天才」の所行を凡人にも分かる形で世に問う能力が要求される。
残念ながら、荒木氏のケースにおいては、このパートナーとしての天才に今ひとつ恵まれていない感があり、ソレが故に良作を多産しながら今一歩メジャーになりきれていない感が強い。(★補4)
やはり天才の所行は我々凡人の参考にはならない。見習うべきは「秀才」であろう。
次回は「秀才」の最高峰例と思われる人物をば。
★補1
本稿において、成功者の例として手塚治虫氏についてあまり触れていないのもこのため。
数々の逸話、伝説を残す手塚氏がある種の天才であったという事に異論がある方は少ないと思われるがどうだろう?
★補2
1980年のデビュー作『武装ポーカー』は、燃えるヒーローも萌えるヒロインも出てこない(舞台は西部劇、登場人物は賞金首とか酔っぱらいのオッサンとかのみ)、のに面白く読ませるという、かなりの異色作。
以降の作歴を見ても、燃えは導入しても萌えは取り入れておらず、そもそも作品世界観にオタク的要素は皆無と言っていい。
荒木氏の経歴を見ると、オタク的要素は漫画をよく読んでいるというくらいで、この点からも日本の漫画家としてはかなり異色。
どうやら「天才」であれば、オタクである必要はないらしい(笑)
★補3
ゆうきまさみ『はてしない物語』からの引用。
ゆうき氏によれば、横山光輝氏の漫画作品に顕著に見られる展開のことで、熱血系の闘志が横行する少年漫画界において、知略や策略の応酬で物語が進むタイプの作品を指すようだ。
荒木氏は、『ジョジョ』の原点に横山氏の『バビル2世』を挙げており、「頭の良い展開」の正統後継をもって任じている感がある。
★補4
ジャンプの長期連載作品と言えば、日本人なら誰もが名台詞の一つも覚えているのが常であるが、『ジョジョ』はタイトルこそ有名だが、その内容となると以外に知らない人が多い。
これは、テレビアニメ化されていないのが大きな要因。
かつてあの『北斗の拳』ですらゴールデンタイムに投入したアニメ界側の才能が、どういうワケか荒木氏には深く関わらなかったのが惜しまれる。
◆次回は「22:ガンダム大仏ボトムズ仁王」
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◆星雲御剣(せいうん みつるぎ)
80年代後期ファミコンブームの頃から各ゲーム誌で攻略記事を担当。
ゲームのみならず、マンガやアニメにも造詣が深く、某大手出版社の入社試験では、面接官に聞かれたウルトラマン、仮面ライダー、ガンダムの顔と名前を全部言い当てたのが合格の最大の決め手になった、と言われている(笑)。
独特のオタク感を実生活に反映させる生き様を模索、実践する求道者。
◆清水銀嶺(しみず ぎんれい)
唐沢俊一氏主宰の『文筆業サバイバル塾』第一期塾生。
既刊『メイド喫茶で会いましょう』(共著)
『ためログ』にて記事を執筆。