29:総括1・成功者、その二つの形
ここまで、主にオタクメディアに関わる部分での「オタク的成功者」の事例を様々見てきたが、成功、つまり生き延びる秘訣というのは、なにもオタク業界の中だけに限った事ではない。
本稿の意義はそこにあり、どんな立場、地位であろうと「オタク的発想力」によって、生き残る可能性は飛躍的に高まる、という事実こそが肝なのである。
では、オタク的発想とは?
ここまでの事例を踏まえた上で改めて総括してみよう。
そこには、大きく分けて、赤塚不二夫氏のような「天才型」と、大河原邦夫氏のような「努力型」の二つが存在している事が分かる。
天才型は、深い考察を表立って見せる事はせず、とにかく生活の全てを「好きな形」へと昇華させる事に心を注ぐ。(★補1)
努力型は、好きであるが故に、その事柄を物にすべく、コツコツと積み重ねるように、一つ一つ出来る事柄を増やしていく。(★補2)
共通するのは、まず第一に「何かを好きである」と言う事である。
好きな事柄へのアプローチ法として、全てを飲み込んで包括するか、足下を確かめながら進んでいくかの違いであり、その意味において天才と努力、この言葉に貴賎はない。
要は、どちらであっても、自分に合った方法で、好きな物との同一化を図っていけばよいのである。
どんな立場のどんな仕事であれ、世に言う「やりがい」を超えた「好きという気持ち」を持つ事が出来れば、その事柄の真髄を理解して、高度なレベルでモノにする事が出来るのだ。
そして、そのための基礎を身につけるのに「オタク的生活」は何よりも最適なのだ。
ただし、この際、一つだけ気をつけたい事がある。
「好き」と言う気持ちには、必ずある感情が付きものであり、その扱い方を間違えると、「出来るヤツ」は、簡単に「単に痛いヤツ」になってしまうのだ。(以下次号)
★補1
赤塚不二夫氏は、とにかくその生活からして「面白い事」を徹底しようとしたらしく、盟友であるタモリ氏、石乃森氏などの証言によれば「時に、それで大怪我を負う事さえ辞さない」程のギリギリな行動力を見せたらしい。
仲間内で集まった真冬の別荘地で、夜中突然木に登り、「むさ……っ!」と叫んでアイスバーン化した雪に突っ込んで全身打撲&擦過傷に見舞われた事があったそうだ……どうやら「むささび!」と言いながら柔らかい雪に突っ込みたかったのだが、高さと距離が足りなかったらしい……最大のポイントは「誰もそんなことは頼んでないし期待していなかった」ことであり、純粋な「面白さ」への探求心がなしえた偉業と言える。
どんな結果でも「これでいいのだ」という、全てを認めて飲み込む行動力とポジティブさをもってして「天才型」と言わずしてなんとしようか……いずれにしても、余人になかなか真似られる事ではないのだが、大いに参考にはなる。
★補2
普通、あの世代の「大家」であれば、一つ成功した手法というのに保守的で、あまりあれこれと新しい事柄には手を出さないモノだが、大河原氏は「その方が楽かも?」とか、「そっちの方が面白いかも?」と、照れ隠しげに言いながら、工芸工作、3DCGと連動したCADシステムなどなど、年々新しい手法に手を染め続けている。これもまた、いざ真似ようと思うとなかなかに大変な事であるが、赤塚氏の「むさ……っ!」よりは確実に安全であるし、人生の規範として心にとどめておきたい所である。
◆次回は「30:総括2・「網」から「盾と矛」へ
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&&&&&&&&&&&&&&&&&&&&&&&& 執筆者紹介 &&&&&&&&&&&&&&&&&&&&&&&&&
◆星雲御剣(せいうん みつるぎ)
80年代後期ファミコンブームの頃から各ゲーム誌で攻略記事を担当。
ゲームのみならず、マンガやアニメにも造詣が深く、某大手出版社の入社試験では、面接官に聞かれたウルトラマン、仮面ライダー、ガンダムの顔と名前を全部言い当てたのが合格の最大の決め手になった、と言われている(笑)。
独特のオタク感を実生活に反映させる生き様を模索、実践する求道者。
◆清水銀嶺(しみず ぎんれい)
唐沢俊一氏主宰の『文筆業サバイバル塾』第一期塾生。
既刊『メイド喫茶で会いましょう』(共著)
『ためログ』にて記事を執筆。