<<通巻30号>> 総括2・「網」から「盾と矛」へ ~「好きで大事なモノ」を「取捨選択」する事が必要となってきている

執筆 : 星雲御剣/注釈 : 清水銀嶺

30:総括2・「網」から「盾と矛」へ

 オタクはかつて「網羅」するものだった。
 アニメにせよマンガにせよ、かつてのオタクは、世に存在する全ての作品に精通し、知らぬ事など無いかのように振る舞うことが最高とされてきた。
 しかし現在、算出される作品数の激増によって、情報量は圧倒的に増加し、とてもではないが個人で網羅などは不可能な状況となってきている。
 こうなると、己にとって、より「好きで大事なモノ」を「取捨選択」する事が必要となってきている。 「全てを知っている」ではなく「あのジャンルなら詳しい」という時代になったとも言える。(★補1)
 自分の好きな部分を切り取る「矛」の習得は、反射的に好きだ、と思える物を、反復的に吸収し続けていけば良いので比較的簡単だ。だが、問題は「盾」の方である。
 前回に前置いたが、好きという感情には、必ず「恥ずかしい」と言う思いがワンセットで付きものだ。
 しかし、この「恥」をごまかして吹っ飛ばしてしまうと、端から見て痛いだけの存在になってしまう。(★補2)
 「恥」は、無理にごまかすネガティブな感情ではなく、好きという気持ちとワンセットである以上、行動の原動力となる肝心要の部分と考えるべきだ。
 公の場に出たときの「オタク的成功者」たちをつぶさに観察してみれば、「恥と共存する」ためのスタンスを取っている事が見て取れる。(★補3)
 また、「恥」を知ることは自尊心を高く持つ、と言うことにも繋がる。
 時と場所をわきまえずにテンションを上げたり、自己満足のためにルールをねじ曲げたり無視したりするのは、恥知らずの所行であることは言わずもがなであろう。
 「恥」と共存し、恥ずかしいからこそ、丁寧に行動する事を心がければ、それがつまりは「生き残る道」となるのだ。


★補1
 昨今TVによく出てくる「○○系芸人」などがその実例である。
 かつてのオタクと異なり、特定の部分には非常に詳しいが、その守備範囲から外れた部分は別段知らずともソレでよいというスタンスは、旧世代のオタクであった著者としてはやや物足りない感じもあったのだが、これこそが現代を生き抜く必須の手法であると気がついてからは、TV的ネタとして潔く心地良い部分であると気がついた次第。
★補2
 これは、旧世代オタクとしての実体験からの注進である……(苦笑)
 長年、一般報道においてはオタクが異様な物として扱われてきた背景には、オタク自身が「恥」をうまく扱う手法に未熟であり、取材の目が向くと無意味にテンションが上がってしまっていた、という点もままあったように思える。
 あの頃は、自身も業界もまだまだ若かったのだ。
★補3
 芝居がかっていたり気むずかしそうだったり、漫画家やアニメ監督などは、大抵の場合非常に個性的な人物として公の場に出てくる。
 その全てが計算だとは言わないが、長年の勘でもって、自らの抱える「恥」と向き合う手段を身につけているのは確かだと思われる。
 ポイントは、ごまかすのではなく、認めて飲み込むこと。
 この差は些細で見極めが難しいが、要は「恥が自分の心に生み出す痛みから逃げ出さないこと」にポイントがある。
 この痛みをごまかしてよそに丸投げしてしまっては、なるほど「単に痛いヤツ」になって当たり前なのだ。
 自らの痛みは、好きであることの代償として自ら飲み込むべし。
さすれば、痛みを超えた至福があるのである。

次回は「31:新章・さあオタクになろう『ロボ編』」
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&&&&&&&&&&&&&&&&&&&&&&&& 執筆者紹介 &&&&&&&&&&&&&&&&&&&&&&&&&
◆星雲御剣(せいうん みつるぎ)
 80年代後期ファミコンブームの頃から各ゲーム誌で攻略記事を担当。
 ゲームのみならず、マンガやアニメにも造詣が深く、某大手出版社の入社試験では、面接官に聞かれたウルトラマン、仮面ライダー、ガンダムの顔と名前を全部言い当てたのが合格の最大の決め手になった、と言われている(笑)。
 独特のオタク感を実生活に反映させる生き様を模索、実践する求道者。
◆清水銀嶺(しみず ぎんれい)
 唐沢俊一氏主宰の『文筆業サバイバル塾』第一期塾生。
 既刊『メイド喫茶で会いましょう』(共著)
 『ためログ』にて記事を執筆。

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