N05:散歩なのか冒険なのか?
主人公の変化の幅が比較的小さいのが子供向け、大きいのが大人向け、という傾向がある事は前回話した。
そして、この振幅が小さいAGEは子供向け企画だからなのではないか……と推測もした。
しかしここで一つ疑問が出るかもしれない。
「だとしても、AGEはポケモンほどには面白くない」と。
前回までは、シリーズ物だと言う事で、元来大人の鑑賞をも視野に入れていた初代ガンダムと、子供向けである事を重視したAGEを同じ価値基準では比較すべきではないのではないか、と言う疑念が生まれた。
そこで今回は、同じ子供向け作品であるポケモンとAGEを比較してみようと思う。
ポケモンとAGE、どちらも舞台を変えながら進むロードムービーであり(★補1)、主人公が出会いと別れを繰り返しながら進行していくのが本来のあり方である。
そして、この場合は出会いが『葛藤』『断絶』を生み、そこから生まれる『困難』を、『助力』でヒントを得ながら主人公自身が自らの『努力』で『解決』する事で物語が成立する。
実は、この構造自体は大人向けであれ子供向けであれ同じであるべきで、対象年齢による違いは、発生する『困難』の種類が「等身大であるか社会的であるか」の差でしかないのである。
ポケモンの物語構造を見てみると、出会いから起こる『困難』を、放送時間たっぷりかけて描き、溜めるだけ溜めてから最後に解放する構造である事が分かる。
対してAGEの場、発生した『困難』が、たいした『助力』も『努力』も無く、割とあっさり矢継ぎ早に解決して行ってしまっている傾向がある。
周辺事情に気を配れば、こうなってしまう理由はいくつか推測できる(★補2)。
しかし、そんな事情はいつの時代にもついて回るのだ。
まあ、まだ放送中ではあることだし、今後の巻き返しに期待(★補3)か。
★補1
決まった顔ぶれが舞台を移しながら進むのがロードムービー、決まった舞台に続々と新しい人物が訪れるのがグランドホテル、と呼ばれているが、実は初代ガンダムはこのどちらでもなく、その両方を兼ね備えた構造を採っている。
よく、富野アニメを揶揄する差異に「どれも大きな船で逃げ回ってる話」という点が指摘されるが、これはロードムービーとグランドホテル、両方の利点を生かすために編み出された手法の一つで、言ってみれば「グランドホテルがロードしてる」構造なのだ。
当然、AGEもこの構造を批准しているのだが、今のところ、舞台を変えていくロードムービー的な手法はそれなりに功を奏しているが、母艦の艦内ドラマがあまり描かれていない現在、グランドホテル形式の利点が生かし切れているとは言いがたいのが現実。
★補2
一つには「三世代に渡る大河ドラマ」をやろうとしているので、消化しないといけないイベントが多すぎるのでは? と言う点。
もう一つが、これは震災以後のアニメ全般同じなのだが「破壊や人的喪失の描写に自主規制がかかっている」のではないか、という推測。
で、あるならば、主人公に関わる『困難』を、戦争という大状況の中にも起こりうるもっと等身大の問題にすればいい訳で(あの「白い狼」の兄さんとガンダムの取り合いをするあたりはその意味で割と良かった……のだが、これも思ったよりもあっさり解決してしまったしなぁ)、このあたりのシフトチェンジが今後の肝だろうか。
★補3
ガンダムというのはやはり大きいタイトルなので、肩肘張りすぎて序盤に迷走した例はいくつかある。
「新しいガンダムのすごさを強調しすぎて緊張感が足りなくなった」ガンダムW、「企画側の意図と受け手の期待に微妙なずれがあった」00などがそうである。
しかし、そのどちらも、おおよそ2クール目までにはその問題に気付いて路線を修正、それぞれに傑作たり得た。故に今後に期待、となる訳。
ところで、UEの正体について、あるネタバレ情報が囁かれているが……詳細はあえて記さないけど、それを今後のサプライズにしたいのであるならば、なおさら初代主人公の現在を等身大で掘り下げておく必要があるのでわ?
「サプライズがあるからその前は抑えめに」では、サプライズ発動まで見てくれる視聴者はほぼいなくなってしまうと思うのだが。
◆次回は、N06:主役は誰だったのだろう?
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&&&&&&&&&&&&&&&&&&&&&&&& 執筆者紹介 &&&&&&&&&&&&&&&&&&&&&&&&&
◆星雲御剣(せいうん みつるぎ)
80年代後期ファミコンブームの頃から各ゲーム誌で攻略記事を担当。
ゲームのみならず、マンガやアニメにも造詣が深く、某大手出版社の入社試験では、面接官に聞かれたウルトラマン、仮面ライダー、ガンダムの顔と名前を全部言い当てたのが合格の最大の決め手になった、と言われている(笑)。
独特のオタク感を実生活に反映させる生き様を模索、実践する求道者。
◆清水銀嶺(しみず ぎんれい)
唐沢俊一氏主宰の『文筆業サバイバル塾』第一期塾生。
既刊『メイド喫茶で会いましょう』(共著)