メイド喫茶を初めて知ったとき、その組み合わせを奇異に感じたことだろう。あたかもそれが突然変異で現れたかのように。しかし、それは現れるべくして現れたのだ。
例えば、「マヨラー」という言葉を覚えているだろうか。なんにでもマヨネーズをかけて食べる人のことを、そう呼んでいたことがあり、マスコミでは奇異なものとして取り上げていた。しかし、マヨネーズの原料は卵と油と酢。卵が絶対に合わない食べ物を列挙するほうが難しいように思えるし、油を使わない料理を考えるのも結構難しいものだ。腐敗を抑える酢の酸味や味が苦手でなければ、マヨネーズを避ける理由は少なくなるはずだ。
文豪の森鴎外の好物が、「饅頭を乗せたお茶漬け」だったという話は雑学のテレビ番組で取り上げられたりして、「気持ち悪い」と思われた人もいるようだが、これも現在の味付けされたお茶漬けの素や居酒屋のお茶漬けを想像するからであって、鴎外が用いたのは煎茶だったという。餡子と餅米でおはぎになるのだから、煎茶との組み合わせは、それほど合わないこともないのではないか。
そして、酒飲みを辛党と云うことから、甘い物を好む人を甘党と呼んで、酒飲みが甘い物を食べると「辛党なのに甘い物も好きなんですか?」と問う人がいる。しかし元々は、酒飲みを辛党と云う連想からの洒落で「飲めない人のこと」を指して甘党と呼んだのであり、かつ江戸時代には酒の肴に羊羹などの甘い物を用いたというくらい、昔の日本酒は本当に辛口だったという。これなどは、歴史の中で言葉の意味が変化し、物へのイメージも変わったために起きた例であろう。
メイドと喫茶店。この奇妙に思える組み合わせもまた、その背景や周辺情報を知ることで印象が変わることと思う。