漫画を読んだり、テレビの視聴、テレビゲームなどの遊戯によって、脳に影響があるという論の中には、基本的な脳の働きに関して理解していないものが多々ある。
日本大学文理学部体育学科の森昭雄教授が、2002年7月に出版した著書『ゲーム脳の恐怖』(NHK出版)は、その最たるもので、β波が低下する状態を「痴呆者と同じ」と論じており、これを信じる者も少なくない。
相対的にα波が増えると、「リラックスしている」あるいは「勉強に適している」と信じている人でさえ、β波が低下する状態を危険と考えるというのは、良く分からない話である。
脳の働きについては現在も研究途上であるが、極めてシステマチックに働いていることは知っておくべきである。
脳が活動するさいには多くのエネルギーを必要とし、生命活動を維持するためにも全機能を休止することのできない脳は、巧妙に「手抜き」をするのである。
例えば先の『ゲーム脳』で提示されている「テレビゲームをし過ぎるとβ波が低下する」というのは、目を閉じているとき、安静にしているときのみならず、勉強や運動をしているときにすら起きる。
何故ならば、「一定時間同じ行為を続けている」と、脳はパターンを学習し、いわば自動操縦に切り替えることで、脳の負担を軽減するからである。
これが「手抜き」であり、「β波が低下する状態」なのだ。
『ゲーム脳』と似た論に、「子供に電気的な光を見せても脳は反応しないが、蛍の光を見せると反応する」という実験から、「人工的な光は子供に良くない」などというものもある。
これも脳の働きからすれば当たり前の話で、見慣れた物に、いちいち反応していては脳が疲れてしまうから人工の光に反応せず、珍しい物に対しては分析するために反応しているに過ぎない。
この実験を意味のあるものにするためには、人工的な光を見たことのない人を連れてきて比較しなければならないだろう。
脳の最大の謎は、どうして「生存に関わる働き以外」に機能するのかということだ。
こうしてメモ書きするのは、どう考えても脳にとっては「無駄な働き」のはずである。