ピンボーン♪ と門の呼鈴(チャイム)を鳴らす。
すると、小時(しばらく)してから、なんの返事も無しに玄関の押戸(ドア)が開いて、命くんが顔を出した。
私は、ニコッと微笑んで小さく手を振った。
二人とも今日から、二週間ぶりの学校。
勿論、一緒に行こうって誘ったのは私。
命くんが門を出ると途端(すぐ)に、私は命くんの手を取って、トットコ歩き出した。
あの日───、病院で目を醒ました私の目に最初に写ったのは、白い天井と、涙を流す私のお母さんとお父さんの顔だった。
───命くんは!?
と訊こうとしたけど、喉を切っていたせいで、声が出せなかった。
でも側で、それを察してくれた夏子さんに、命くんが息を吹き返したことを知らされて、私も涙を流した。
私の喉と左手首には、もう塞がったけれども、命くんの後を追った時の傷が明確(はっきり)と残っている。
この傷は消えることは無い。
ううん、消すつもりも無い。
だって傷(これ)は、命くんを好きになった証印(しるし)。
命くんのためなら、死ぬことだってできるんだっていう誓印(しるし)。
情けない事だけど、この傷が無ければ、命くんのことをずっと好きでいつづけられるか自信が無い。
でも、この傷が在(あ)る限り、私は………。 荒川の土手の所まで来ると、土手の上を生徒たちがゾロゾロと歩いていた。
私と命くんも土手を登って、登校する生徒たちの中に混じった。
でも、命くんの歩速に合わせていると、どんどん後ろの方になってしまう。
不意に、背中をドンと叩かれた。
「フッちゃん、早くせい。先に行っちゃうよ」
叩いた主(ぬし)は、森川都茂世。私たちを抜いて、先に行こうとする。
「トマトの薄情者ォ!」と抗議をすると、今度は佐藤佐智子が、
「早く行かないと遅刻しちゃうもの」と抜いて行った。
「サッチまで、それはないでしょう!?」
───しょうがない、ちょっとばかし急ぐか。
と思ったけど、やっぱりやめて、先を行くトマトとサッチに叫んだ。
「こっちは病み上がりなんだからねェ!」
「ねえ?」と命くんに同意を求めたけど、黙って小さく笑うだけだった。
すると突然、堅強(ガッシリ)とした手で右腕を掴まれた。
振り向くと相手は、織田信雄だった。
「まあ、緩(ゆっ)くり来いや。どうせ教室に入ったら、騒がしくなって授業にならんだろうからな」
そう言って大将は手を振り、トマトとサッチを追って行った。
その背中に向かって命くんが、
「ありがとう」と言い、私も言った。
そして命くんに、
「じゃあ、楽裕(のんび)り行こうか」と笑いかけたけど、命くんは小さく笑って黙諾(うなず)くだけ。
───もう!
私は、命くんの手を引くのをやめて、腕を絡ませた。
ポッと顔を紅らめる命くん。
照れちゃって、可愛い(^▽^) 命くんはまだ、私とお喋りをしてくれない。
それどころか、私の名前も呼でくれない。
でも、まだ馴れないからだよね。
これから、これから。
これからだもの。
私はその間に、もっともっとも───と、命くんのことを好きになるんだ♪♪♪