夏休みが終わり、二学期の始業式の日。
僕は、少し重たい体を起こした。
カーテンから漏れる陽の光がいつもより眩しく感じる。
ベッドを降りた僕は頭を掻きながら、フラフラと階段を降りる。
パンを焼いて、母さんが作ってくれたスープをお椀によそる。
朝ごはんを食べ終わり、歯を磨いていると、ピンポーンとインターホンが鳴った。
「おーい早く来いよ、先行くぞ」
里久の声が玄関の方から聞こえる。
「ちょっと待って!」
制服を着て、整えながら返事をする。
数分後「お待たせ」と、玄関の扉を開けると、里久は呆れたような顔をしていた。
僕は結局、夏休み中はこの二人とイオの四人で遊んでいたから、最終日に宿題を全部終わらせる羽目になったのだ。
夜遅くまでやっていたせいか、今日は少し寝坊してしまった。
そんな訳で、里久を待たせてしまって、申し訳なく思う。
たったの一か月前くらいの通学路を歩くと、なんだか懐かしく感じた。
まだまだ蝉は鳴き、太陽は僕の肌を焦がす。
「おはよー二人とも!」
後ろから凛音の声がしたと思ったら、次には里久の隣にいた。
たまたま、登校のタイミングが被ったみたいで、三人で学校に向かって歩く。
「あーあ、学校始まっちったよ。眠いんだよな~」
里久が疲れたように言う。
「でも、夏休み長すぎてもなんか嫌」
凛音は学校の方を見ながら応える。
僕はやっぱり「まぁ確かに」としか反応できなかった。
広い道路はいつもと変わらずに、信号待ちの車で渋滞している。
自転車に乗った高校生らしき人が、その脇をスイスイと通り過ぎていく。
学校に着き、教室に入る。
久しぶりのクラスメイトたちの顔にホッとして、鞄から提出物を取り出し、ロッカーに入れる。
「体育館履き持って並んでー」
委員長が皆に呼びかけ、皆はその声で廊下に並び始める。
やっと着いたのに、これからまた体育館に行かなくちゃいけないと思うと、少し気だるく感じる。
里久と話しながら、廊下を歩く。
体育館に着くと、三年の先輩方や一年生の後輩たちがすでに整列していた。
全学年が揃ったところで、整列し直す。
「一同、礼」
先生の声で皆が礼をする。
「皆さん、おはようございます。新学期が始まりました。夏休みはどうでしたか?先生は―――」
校長先生の長い長い話を立ちながら聞く。
眠気で倒れそうになりながら、どうにか校長先生の話を聞こうと意識するが、長く持たない。
早く終わらないかな、と体育館の窓や壁を見て気を紛らわせる。
「―――以上で、始業式を終了します」
永遠にも感じた始業式が終わる。
教室に戻ると、椅子にダラッと座る。
なんとなく、一学期に皆が作った掲示物を見渡して、暇をつぶしていると、担任の先生が入ってきた。
先生は教卓の前に立ち、全員が座って静かになったのを確認すると、話し始めた。
「おはよう。今日から二学期が始まるからね。夏休みで、気が抜けてる人もいると思うけどね、気を引き締めてね。二学期は校外で宿泊学習あるから、それに向けて、皆で活動して、ね。大丈夫ー?皆話聞いてる?」
先生のいつも通りのテンションに、数人の笑い声が聞こえる。
クラスで一番元気な奴が「元気どぅえぇぇぇす」と大声で叫び、クラス中が爆笑に包まれる。
「お前は元気すぎだよ。大人しくしてろ。でもいいよー!」
先生はにっこり笑い、冗談交じりに言う。
僕らの担任は、親しみやすく、自分の昔の話をすぐ語るおばさん先生で、ラスボスとも呼ばれているが、なんだかんだ言って生徒から好かれている。
「体育祭も近いから。練習してる?大丈夫?あたしのクラス、毎年毎年ビリから二番目だから。ビリから二番目だから、せめて三位くらいは取って」
先生が笑いながら、体育祭の話をする。
来週から二週間、体育祭に向けて特別時間割になる。
僕と里久は二人三脚リレーに、凛音は六十メートル走に参加する。
夏休みに練習は全くしていない。
今日はお昼には帰れるから、里久を誘うことにした。
「へぇ、体育祭っていうのがあるんですか?」
イオが興味ありげに、いつもより近い距離で言った。
学校から帰ったあとにこっそり、コスモスに乗りに来たのだ。
「そう。学校の皆で走ったり、縄跳びしたり、綱引きとかもやるんだよ」
「楽しそうですね。私も参加してみたいです」
「そ、それは難しいかなぁ」
「そうですか・・・」
シュンと頭を下げてしまうイオ。
ずいぶんと表情豊かになったんだな、とふと思った。
「ご主人様は、なんの種目なんですか?」
「二人三脚だよ、里久と」
「里久さんと息ぴったりなんですか?」
「まだ完全じゃないけどね。イオは最近はどう?僕はずっと宿題とかで中々これなかったけど」
「私は、お料理の本を読んだりして、コスモスに手伝ってもらって、ご飯を作る練習をしていました!」
「料理?」
「はい。こういうのは身につけた方がいいかもしれないってコスモスが言ったので」
「イオは覚えるのが早いので、出来る事が増えていってますよ」
コスモスも会話に加わる。
「料理はどれくらいできるようになったの?イオ」
「ちょっとです。まだ人にお出しするようなものは…」
そう言って視線を逸らしたから、恥ずかしそうにしているのが伝わってくる。
「そっか。僕は多分しばらく二人に会いに行くの厳しそうなんだ。土日のどっちかに行けたら行くよ」
本格的に体育祭の練習が始まり、朝練と放課後練も加わるから、絶対に疲労が溜ればなかなか会いに行けないだろう。
「お待ちしています、マスター」
「体育祭の練習頑張ってくださいね、ご主人様」
「うん、ありがとう。イオ、コスモス。じゃ、今日はこの辺にしておくよ」
僕は「またね」と二人に手を振り、家に帰るために装甲車に乗った。