『メイド喫茶で会いましょう』　番外地2「メイド喫茶を取り巻くジェンダー」

　『アキバＢｌｏｇ』にて、本著『メイド喫茶で会いましょう』が取り上げられていました。
　ありがたいことです。

　さて、女性がメイドに扮して、男性がそれを愉しみに商業施設を訪れるというのは、性の商品化という問題として捉える人もいるようです。
　しかし、本著でインタビューに答えていただいた元メイド喫茶の店員さんのように、彼女たちは望んで勤めており、一部のマナーを守らない輩を除いては、男性客もまた同じ空間を共有することに協力的です。
　さらに、女性客が訪れることも珍しくなく、反対に男性が執事として迎える形態や、男装した女性がもてなす店もあるくらい。
　漫画誌などは今でも、「少年漫画」と「少女漫画」という区分けを持っていますが、少年漫画を読む女性も、少女漫画を読む男性も、今や珍しいことではないから当然とも云えるでしょう。
　むしろ興味深いのは、性差が無くなりつつあるのに、現に残っている事実の方だと私は思います。
　一般的に、少年漫画は主人公が状況や周囲の人たちとの関わりの中で、実際に行動を起こして成長を示すのに対して、少女漫画の主人公は内省的に感情の動きを語ることで成長していく様子を物語として展開していくことが多い印象があります。
　この定義が当てはまるようでいて、あまり当てはまらないように感じるとすれば、まさしくそれは現代の日本を取り巻く「ジェンダー」の問題と関係しているのです。
　ジェンダーという用語は日本では特に社会学や文化的な分野で「性差」と誤訳されたまま広まってしまいましたが、「性のありよう」の方が意味が近いと云えます。
　では、「性のありよう」とはどういうことか。
　ひと頃、「男脳・女脳」という言葉が流行ったことを記憶している人もいるでしょう。
「男は何かをしながら話を聞くことができない」とか、「女は地図を見て空間を把握することができない」といったことの原因は、脳の性差によるものだという説に基づく話です。
　確かに脳はホルモンの調節なども司っているため、性差によって構造や機能の違いがあるのは分かってきているものの、その多くは研究途中。
　だから、「男脳・女脳」もまた、科学的には実証されていません。
　ただ「傾向がある」というだけ。
　つまり、「性のありよう」というのは、男性の中にも女性的な面があり、同じく女性の中にも男性的な面があることを認めつつ、働き方や生き方を考えていくということにほかなりません。
　そして、『メイド喫茶』をキーワードに「性のありよう」を考えてみると、男性は「世界観に設定」を求めて、女性は「自分に設定」を課す傾向にあるようです。
　子供の時代に持つ同じ変身願望でも、男の子が憧れるヒーローは単体では存在しえず、対応する敵が存在する世界が必要となるのに対して、女の子が憧れるヒロインは物語り上の敵が必ずしもいなくても、自分が変身することで内在する世界をも変革するというように。
　これは女性向けの執事喫茶や男装喫茶で顕著なようで、メイド喫茶を訪れる男性は普段着のままであることが多いのに、女性は行く店に合わせた服装で訪れ、時としてコスプレで来店する客もいるという話からも、その違いは決して小さくありません。
　賃金などの経済行為は、近代的な生活者には欠かせないものであるため、「商品化」という価値観に疑問を持ちがちかもしれませんが、それ以前に生物としての本能と、人間としての知性の発露として、メイド喫茶があるのかもしれません。
　メイドさんたちのインタビューや告白は、ぜひ本著でお楽しみ下さい。