『メイド喫茶で会いましょう』 番外地3「女性が創ったムーブメント」

 前回は、メイド喫茶を取り巻くジェンダーについて書きましたが、もう少し女性について書きたいと思います。
 単に女好きってだけという話もありますが。


 本著でも世間でも、メイド喫茶をオタク文化の一つとして捉えています。
 そして、そのオタク文化なるものが世間では、男の文化として捉えられていることが多いようです。
 これは多分に、オタクという言葉が世間に広まったキッカケが、宮崎勤による連続幼女殺人事件だったからというのと、同じようにエロ同人誌がマスコミに取り上げられて目立ったというのがあるでしょう。
 しかし近年は、女性のオタクが自称する「腐女子」や「貴腐人」という言葉もマスコミに取り上げられ、ブームになったメイド喫茶の店員が女性のオタクと紹介されるようになったことから、「女性のオタクが増えた」と捉えられるようになってきました。
 でもこれは、事実と異なります。
 例えば、本著にも書いてあるように、自分の想いを具現化する行動力を発揮し、好きなキャラクターに扮するコスプレを始めたのは女性です。
 そのコスプレを行なった同人誌即売会である『コミックマーケット』が、1975年に初めて開催された時には、約700人の参加者の実に90%が中高生の女子でした。
 男性参加者が過半数を占めるようになるのは、それから6年後の1981年になってからです。
 また、日本のテレビアニメのエポックメイキングとなった作品、1974年に放送された『宇宙戦艦ヤマト』は視聴率の低迷から、1979年に放送された『機動戦士ガンダム』は視聴率は悪くなかったものの、スポンサーの玩具の販売不振によりテレビ放送が打ち切られたにも関わらず、それぞれ劇場作品として公開されて、現在に至るも人気を保っていますが、その劇場化を後押ししたのは女性ファンでした。
 どちらの作品も当時、男性ファン、特にSF作品としての視点から「SF作品ではない」と否定する人たちと、「新たなSF作品だ」というような肯定する人たちの間で、険悪な雰囲気が漂っていました。
 そんな中、作品の世界観や物語などよりも、登場人物を好きになり、その想いを原動力にテレビ局や制作会社に再放送、再作品化を働きかけたのが女性ファンだったのです。
 オタクの負のイメージの一つである、「二次元のキャラクターに恋をする」というのは、むしろ女性的なものなのかもしれません。
 そして、そのための行動力は男性よりも有るようです。
 女の子向けの玩具が、本物の料理ができる玩具や、本当にメイクできる化粧品という方向に展開していることとも無縁ではないように思えます。
「女性は本質的には、ロマンチストではなくリアリスト」と云われることもあるように、現実と地続きでファンタジーな世界と「行き来できる」特性を兼ね備えているのが女性で、「想像力が創造力」とでもいうように、女性は夢見たものを具現化する能力に長けていると仮定することができそうです。
 そしてメイド喫茶も、メイド服を着た女性にかしずかれたい、癒されたいという男性の側の要望があったにせよ、それが実現したのは、商品化された女性ではなく、変身願望を持ち、かつそれを実現しようという行動力を兼ね備えた女性がいたからでしょう。
 このムーブメントは、女性によってもたらされたとも云えるのです。
 本著ではさらに、メイド喫茶とオタク文化の結びつきについて、お読みいただけます。

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